冴木 怜華(さえき れいか)は、千葉県の長生郡で生まれ育った。
温暖な気候、広がる田畑、遠くに海を望む、のんびりとした田舎町。
そこで、怜華は、誰からも一目置かれる存在だった。
成績優秀。
運動神経抜群。
明るく、面倒見も良い。
地元で最高ランクと言われる進学校へも、当然のように合格した。
彼女の周囲――
クラスメートたちの多くは、東京大学や名門大学への進学を目指していた。
実際、付き合っていた彼氏たちも、ことごとく東大へ進学していった。
だけど、怜華には、別の夢があった。
(私は、リングに立ちたい。)
それは、小さな頃から抱き続けた憧れだった。
テレビ越しに観た、
強く、美しく、誇り高い女子プロレスラーたち。
リングの上で、すべてを賭けて闘う彼女たちに、
怜華は、心の底から憧れた。
大学進学を蹴り、
怜華は、自らルナパワーズの門を叩いた。
プロレスラーへの道は、決して甘くなかった。
デビュー当初、怜華は「アイドルレスラー」として売り出された。
可愛い笑顔。
明るいキャラクター。
ファンからはすぐに人気を得た。
だが、リング上の実力は、追いついていなかった。
同期のライバル――キューティ桃瀬。
彼女とは対照的に、
怜華は、164cm・65kgという大柄な体格を持っていた。
その恵まれた体格を活かすために、怜華は必死で努力した。
サンボ、柔道、空手。
あらゆる格闘技の基礎を取り入れ、
自らのプロレススタイルを築き上げていった。
それでも――
筋力面では、決して恵まれていたわけではなかった。
怪我も多く、悔し涙を流す夜も、数え切れなかった。
だが、デビューから2年。
怜華は、初めてタイトルを手にした。
それは、彼女にとって単なるトロフィー以上の意味を持っていた。
(やっと、ここまで来た。)
その勝利を境に、怜華は変わり始めた。
写真集も次々とリリース。
男性ファンは急速に増えていった。
コスチュームにも徹底的にこだわった。
クラシカルな水着タイプ、
フリルをあしらったレオタード風、
モダンなカットを施したアグレッシブなもの。
毎試合ごとに新しい衣装を用意するほどの情熱。
リングシューズまでデザインにこだわり抜いた。
リングは、怜華にとって「見せ場」であり、「舞台」だった。
そして、怜華はアイドルレスラーの殻を破った。
小悪魔的な微笑みを浮かべ、
時にリング上で相手を挑発する。
ビジュアライズ・ヒール。
美しく、少し意地悪な小悪魔。
そんな新たな魅力を身につけた怜華は、
アイドルであり、悪女でもあるという、
独自のスタイルを確立していった。
いまや、
ルナパワーズ人気投票第4位。
女子プロレス界全体でも、第9位。
名実ともに、トップレスラーの一角に名を連ねている。
だが、怜華は知っていた。
「可愛いだけ」でも、
「強いだけ」でも、
この世界では生き残れないことを。
強く、美しく、狡猾に。
すべてを武器にして、
リングの上を、堂々と歩き続ける。
それが――冴木 怜華という、女だった。
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